第三章 チーム


 「・・・という感じで進んだんですよ。ま、それなりにうまくいったとは思
うんですけどね。」
 「有川さん、やりましたね!これはやはり、もともと持っていた素質じゃな
 いかと私は思うんですけど。」
 「いやぁ、そんなことないですよ。むしろ先週のセッションで昔を思い出さ
 せてくれた羽賀さんのおかげですよ。ありがとうございました。」

  月曜の朝、コーチングを始めて2回目。先週の羽賀コーチとのコーチング
 セッションを皮切りに、この一週間起こったことの報告から始まった。
  朝7時からの電話でのセッション。かみさんや子どもには聞かれたくない
 ので、コードレスフォンを自分の書斎に持ち込み、電話の向こうの羽賀コー
 チと二人っきりなのを確かめてから、会話を進める。

 「いやぁ、いきなりこんなに進展するとは思わなかったですよ。やればでき
 るっていう実感が湧いてきましたね。」
 「有川さん、この調子でがんばりましょうよ。ところで、今日のセッション
 はどんなことをやりますか?」
 「それなんですよ。今頭を抱えていることが二つばかりありましてね。
 一つは部長の件。先ほども言いましたけれど、先週の『たくらみ』ってやつ
 は部長を通すと絶対に成功しなかったと思いますからね。今回は結果的には
 よかったと思っているんです。
 でも、部長の顔をちょっとつぶしてしまったのも確かですからね。あれから
 私に対しての態度が、ちょっと冷たくなったような気がしているんです。」

  そう、あの一件以来、三宅部長は私に対して妙によそよそしくなってしま
 った。
  もともとリーダー格になりたがりの三宅部長、今回は私の突然の提案「プ
 ロジェクトチーム復活&プロジェクトリーダー立候補」を知らされていなか
 ったことに非常に頭にきたらしい。
  まあ無理もないか。三宅部長でなくても、直属の上司をすっ飛ばして会社
 に重大ごとを提案するのは、ちょっと反則わざととらえてしまうだろう。

 「で、部長さんに対しては今後どのような関係を気づき上げたいと思ってい
 るんですか?」
 「もちろん、上司と部下としていい関係を保ちながら、部長のバックアップ
 をうけてプロジェクトを進めていきたいですよ。」
 「なるほど、『いい関係』ですね。
 どうしましょう、今日はこのテーマで進めますか?それとももう一つのテー
 マを聞いてからにしましょうか?」
 「できればもう一つの方も先に聞いてくれませんか。」
 「えぇ、どうぞ。ぜひ聞かせて下さいよ。私も気になっているんです。」
 「はい、これも先ほど話しましたけど、今回のプロジェクトはたった5人で
 進めなきゃいけないんですよ。しかもメンバーは専任ではなく非常勤の兼任
 チームで。
 一体誰をメンバーにしたらいいものか・・・。あれからずっと悩んでいるん
 ですよね。これをコーチングですっきりさせたいなぁ・・・」

  そうなんだ、これが先週の火曜日、社長から条件付きでプロジェクトチー
 ムの件に対してOKをもらってから、頭からこびりついて離れない悩みなの
 である。
  このプロジェクトチーム、私がメンバー選定から一任されているのだが、
 あさっての水曜日がそのメンバー選出期限なのだ。

 「有川さん、じゃあどちらから解決したいですか?」
 「うぅ〜ん、そうだなぁ・・・。とりあえず期日が決まっているプロジェク
 トメンバーの方からやりましょうか。」
 「メンバー選出ですね。わかりました。
 ところで、この話がきてからメンバー選出の件を誰かに相談しましたか?」
 「相談ってほどじゃないけれど、同期の森田には話をしました。でも森田が
 言うにはですね『おまえが言い出した事だろ、おまえの好きなようにやれば
 いいんだよ』なんて冷たくあしらわれちゃいましたよ。」
 「なるほど、そうですか・・・。ほかに相談できそうな人って思い付かない
 ですか?」
 「そうだなぁ・・・とにかく誰か一人を決めてしまえば、そいつの意見を聞
 きつつ、すすすぅ〜っと決まりそうな気がするんですよね。」
 「ほぉ、最初の一人が肝心ってわけですね。」
 「そうなんですよ。さて、誰にしようか・・・」
 
  最初の一人か、この人物の選択でプロジェクトチームが決まるわけだ。
 結構重要なポジションだな。

 「有川さん、一つ聞いてもいいですか?」
 「はい、どうぞ」
 「今回5人っていいましたけれど、これは社内のどのような部署から人を集
 めるのですか?」
 「これについては、もう決めてあるんですよ。
 私意外にも営業から一名、次に製造方面で工場関係から、技術からも一人必
 要ですね。そして物を買うという視点から購買部門、最後に生産すべてを見
 渡せることができる製造管理部門から。この5人です。」
 「なるほど。では役職はどうなんですか?」
 「できれば係長・主任クラス以上ですね。」
 「それって会社で決められているとか?」
 「いや、そういうわけではないんですけど。まあ一般的にはそんな感じです
 からね。
 あ、そうか。別に主任にこだわる必要ってないんじゃないかな。つい係長・
 主任クラスにこだわって人選を考えていたけど・・・。

  頭の中にこびりついていた氷の塊が、一気に溶けた。そんな感じを受けた
 一瞬だった。
「それなら一人目は決定だ!」
 私は思わずそう叫んでいた。
 なんでこの人物に気がつかなかったんだろう。
 
 「有川さん、何か気付かれたようですね。よかったら教えて下さいよ。」
 「はははは・・・なんで気付かなかったんだろうな、一人目。
 羽賀コーチ、ありがとうございます。これが『視点が変わる』って事なんで
 すね。いやぁ〜すっきりしましたよ。」
 「なんだか盛り上がってますね。で、その一人目って一体どんな人なんです
 か?」
 「羽賀コーチもよくご存じの人ですよ。ほら、わかるでしょ。」
 「というと、あの人ですか。」
 「そう、あの人ですよ。」
 
  この後のセッションは、『あの人』の話題でもちきりになってしまった。
 
  コーチングセッションが終わると、私はもういても立ってもいられずに会
 社へ直行した。もちろん、『あの人』に会うためである。
  でも『あの人』の前に会わなきゃいけない人がいるんだよな。
  
  会社に着くとカバンをデスクにおいてすぐさま技術部へ直行。
  半分息を切らしながら、扉を開けて
 「森田、森田主任はいるか?」
 「なんだよ有川。そんなにあわてて。オレならここにいるぞ」
 森田は私の後に立っていた。どうやら会社に着いたばかりらしく、カバンを
 右手に、左手には今から飲もうとしているカップのコーヒーを持っていた。

 「有川、めずらしいな。おまえがこんな朝から技術部に来るなんて。」
 「森田、おまえに相談があるんだ。ちょっと落ち着いたところで話そう。」
 「その前におまえが落ち着けよ。
 ま、あっちでたばこでも吸いながら話すか。」
 私と森田は場所を移動し、その間に私の呼吸も落ち着きを取り戻した。
 
 「で、相談って何だ。」
 「いやな、おまえも知っているとおり例のプロジェクトチームの話しだ。
 率直に言おう、あいつを、星田くんをくれないか!」
 「・・・星田か・・・。」
 「ダメか?」
 「っていうかさ、おまえ、遅いんだよ。
 プロジェクトチームの話しがあってから、オレは真っ先に星田を取りに来る
 と思って準備していたんだよ。」
 「も・・森田・・・。」
 「あいつにはこう来るだろうと思って、すでに話しはしてある。
 基本的には非常勤の兼任プロジェクトということだよな。でもオレの権限で
 星田は思う存分使っていいように開けてあるから。
 たまにウチに返してくれりゃ、それでいいぞ。」
 「・・・よっしゃぁ!」
 思わずガッツポーズをとってしまった。
 森田は笑いながら、手に持ったコーヒーをずずっとすすっていた。
 
 「善は急げ、だ。星田をよんでこよう。あいつ、あの一件以来会社に来るの
 が早くなったからな。実験室にいるだろう。」
 そう言って工場の実験室に向かっていった。
 
 「有川課長、声をかけてくれてありがとうございます!」
 星田くんはあいかわらず人なつっこい笑顔で、そう応えてくれた。
 「星田くん、これからよろしくな。矢木沢産業にとってはイバラの道だしか
 なり困難を極めそうだが、君がいてくれるとこのプロジェクトもなんとかな
 りそうだよ。」
 「いやぁ、そんなに言わないで下さいよ。なんだか照れくさいなぁ。」
 「で、前回の星田くんの成功と今の社内でのネットワークを活かして、早速
 相談があるんだが。」
 「なんでしょうか?」
 「実はとても急な事なんだが、明日までにプロジェクトチームの残り4人を
 決定しないといけないんだ。
 誰か思い当たる人はいないかな?
 なにしろ明日だろ。今の業務にプラスしてこのプロジェクトに参加してくれ
 そうな人、しかも少数精鋭だからそれなりに有能な人っているかな?」
 「そうですね・・・どんな部署の人間が必要なんですか?」
 「それは決まっているんだ。営業、工場関係、購買、製造管理、そして技術
 部から星田くん。この5名だ。」
 「なるほど、営業、工場、購買、製造管理ですね。
 それじゃ、お昼まで時間をいただけますか?午後に電話しますね。」
 「あ、あぁ、わかった。誰か思い当たる人物がいるのか?」
 「それは企業秘密ですよ。それじゃ午後をお楽しみに!」
 私にかなりの期待を持たせて、星田くんは先ほどまでいた実験室へと消えて
 いった。

 一体どんな人物が彼の口から出てくるのか。
 楽しみでもあり、不安でもあり。
 今は彼の言葉を信じて、午後を待つしかないようだ。 
 
                  ★

 手元の時計は11時を少し過ぎたところ。
役員にプロジェクトチームの人選を報告するまで、あと27時間。
そして今、星田くん以外の残り4人の人選はまだ進んでいない。
残り時間でやる事は山ほどある。残りの人選もそうだが、その人たちを説
得にかからなければならない。
なにしろ業務は兼任。つまり今の仕事を続けながら、売り上げ倍増プロジ
ェクトに協力してもらうわけだ。そう簡単に首を縦に振るとは思えない。
選ばれた人間の上司については、私がプロジェクトチームの選定を行った
時点で、ほぼ無条件に差し出すということで話はついている。
逆に、それだけにこの人選は困難を極めるのだ。「こいつをプロジェクト
に貸し出したばかりに、こちらの業務がうまく回らなくなった」なんて後ろ
指さされたくないからな。

そうこう考えているうちに、もう12時前。
星田くんは本当に人選をしてくれるのか?それよりも彼に頼り切っていい
のか?でも一週間近く考えた頭ではこれ以上進まないし。そんなことがまた
ぐるぐると廻り始めた。

と、その時だった。
「課長、有川課長。技術部の星田さんからお電話です。」
「お、そうか。星田くんからか。電話を内線1番にまわしてくれ!」
ようやく待望の電話がかかってきた。いてもたってもいられず、電話での開
口一番
「星田くん、決まったか!?早く聞かせてくれないか。」
「有川課長、そんなに焦らないでくださいよ。もう5分もしないうちにお昼
休みですよ。どうですか、この話をしながらランチでもいっしょに。」
「おぉ、そうだな。それもいいかも。じゃあ、昼休みに食堂で会おう。」
「それよりもちょっといいところに行きませんか。できれば落ち着いて話の
出来るところに。」
「あ、あぁ。それもいいかもな。で、どこに行くんだい?」
「とりあえず外なので、正門のところで会いましょう。」

焦る気持ちを見透かされているのか。とにかく星田くんの言うとおりにし
よう。
あと少しでお昼のチャイムがなるというところ。私は机の上を軽く片付け、
手帳を片手に外に出る準備を行った。

「ここ、ここですよ。有川課長、さ、どうぞ。」
「へぇ〜、会社のすぐ近くにこんなところがあったとはな。」
星田くんに連れてこられたのは、会社から歩いて5分程度、街中なのにそ
こだけ空間が昭和30年代にでもタイムスリップしたようなお店だった。
どうやら少し古い民家を改造したお店らしい。中国飲茶の専門店という意
味合いの中国語の看板が掲げてある。

「この建物があったのは知っていたが、飲茶専門店だったとは。知らなかっ
たよ。たしかにここなら落ち着いて話ができそうだ。星田くんもいいところ
知っているじゃないか。」
「はは、実はここ、羽賀コーチから教えてもらったんですよ。なんか落ち着
くでしょ。前に自分の気持ちが高ぶっていたときに羽賀コーチにここに連れ
てきてもらって、特別セッションをやってもらったんです。
そしたら効果てきめん。そのあと自分がどう行動すればいいかをじっくり考
えることができましたよ。」
「なるほどね。いい経験をさせてもらったんだな。
ところで例の話、さっそく聞かせてくれよ。いったい誰を選んだんだ?」
「その前に、料理を頼みましょうよ。ここのランチ飲茶がお勧めですよ。
それでいいですか?」

食事の注文をしたときに気づいた。ここのスタッフはすべて中国人なんだ
な。かなり本格的な料理店だ。飲茶専門というのも確かだ。壁には何十種類
ものお茶が並んでおり、茶器も見事にディスプレイされている。
異国情緒あふれているのに、妙に落ち着く。不思議な空間だ。

「星田くん。で、そろそろ聞かせてくれよ。誰を選んだんだい?」
「おそらくこれなら有川課長も納得してくれるだろうって人たちです。以前
いっしょに仕事をした人たちの中から選んでみました。
まず営業ですが、二課の前村さんです。有川課長の一課からでなくてすい
ません。でも彼の持ち前の明るさと前向きさは戦力になると思いますよ。」
「前村くんか、確かに星田くんに近いキャラクターをもっているな。いや、
彼なら星田くん以上かな。」
「はは、確かに。次に工場部門からは製造一係の係長、古畑さんです。ずっ
と現場でならしてきた熟練ですからね。製品知識はずば抜けたところがあり
ますよ。」
「古畑さんね。直接は知らないがうわさは聞いているよ。イメージは『頑固
一徹』って感じだったよね。扱うのに難しそうだな・・・でもあの人の知識
ははずせないかもな。」
「でしょ。そして購買からは山元さん。あの計算高さはご存知でしょう。」
「あぁ、これも有名だよな。かれにかかれば原価計算から仕入れ価格、製品
に関するありとあらゆる計算をスパッとやってのけるといわれているからね。
でもちょっと生真面目すぎるところもあるかな。さっきの前村くんとは正反
対だね。」
「ふふっ、確かに。最後は製造管理でしたよね。ここからは本多さんです。
丁寧なバックアップをしてくれる人ですよ。」
「本多くん・・・えっと、どんな人だっけ?ちょっと記憶にないんだが。」
「無理もないですよ。彼は私と同期なんですが、目立たない人間でね。その
反面、彼からサポートを受けた人間は山のようにいますからね。彼はきっと、
会社を辞めてしまってからその存在の大きさに気づかれる、そういうタイプ
ですよ。」
「前村くん、古畑さん、山元くん、本多くん、それに星田くんと私か。なん
だかバラエティーに富んだメンバーだな。」

このとき、チームリーダーとしてやっていけるのかという不安と、その前
に控えている彼らの説得が気になっていた。
それ以上に、目の前で満面の笑みを浮かべながら飲茶をほおばっている星
田くんが行ったこの人選の意味が、今の私には気になって仕方なかった。
 
  星田くんのおかげで、プロジェクトチームの人選はとりあえずできた。し
 かし、気がかりな点が二つある。
  一つは、本当にこの人たちでいいのだろうか、という点。
  
  飲茶ランチのデザートを、満足げにほおばっている星田くんに質問をして
 みた。
 「星田くん、なかなかバラエティーに富んだ人選だね。
 私の知っている人もいるけれど、この4人って私は仕事上でそれほど面識が
 ないんだ。
 よかったらどういった理由で選んだのか、教えてくれるかな?」
 「ん、そうですね。(んぐんぐ・・・ごっくん)
 あ〜、うまかった。ごちそうさま。っと、で、人選の理由でしたね。
 実はボクが以前一緒に仕事をしたことがある人たちなんですよ。ほら、半年
 前にやった新製品の開発の。他にもいろんな人と関わりがあったんですけ
 ど、特にこの4人はメインメンバーといってよかったですね。」
 「なるほど、星田くんにとっては実績のあるメンバーなんだ。」
 「ええ、ですから安心して下さいよ。」
 
  そうか、実績があるのなら今回はこのメンバーに任せてみるか。
  しかし、ランチの勘定を払い、会社へ帰る途中に星田くんがぼそっとつぶ
 やいた言葉を、私は聞き逃さなかった。
 「ふふ、このタイプ分けチームなら面白くなりそうだ・・・」
  あえてその発言は聞き流したが、一体どんな意味なのだ?
  
  会社の門をくぐったときに、もう一つの気がかりな点を星田くんに告げて
 みた。
 「人選が決まったのはいいが、彼らはこのプロジェクトに参加してくれるん
 だろうか?
 なにしろ今の業務を持ちながら、その上でこのプロジェクトだ。各部署で多
 少の優遇措置はとってもらえるだろうが、仕事が倍増するんだ。
 大丈夫か・・・?
 役員へのメンバー提出は、明日なんだよなぁ。」
 「有川課長、その仕事ボクに任せてくれませんか?
 早速午後からそれに取りかかりましょうよ。」
 「え・・・そうだな。君は彼らと仕事をした実績があるから、そのほうがい
 いかもな。じゃあ任せたよ。
 とはいえ、私もプロジェクトリーダーとしての責任があるから一緒について
 行くよ。」
 「じゃあ、1時半から行動開始しましょう。まずは営業二課の前村さんから
 いきますか。営業フロアに行きますので待って下さいね。」
 「ああ、わかった。準備をして待っているよ。」
 
  そして約束の時間、星田くんと一緒にとなりのデスクで腕まくりをして、
 頭にタオルを巻いて必死で見積をつくっている前村くんのところに向かっ
 た。見るからに「熱血営業」という感じが漂ってくる。
 「前村さんっ、相変わらずバリバリやってますね。」
 星田くんは気軽に前村くんに声をかけている。仕事中なのにいいのか?
 「おぉ、星田くんじゃないか。それに有川課長も。一体何事ですか?」
 星田くんの呼びかけに、ぴたっと手を止めた前村くん。
 「前村さん、ちょっといい話があるんですけど、のってみますか?」
 「なんだよ、気になるなぁ。早く言えよ。」
 「前村さんの力で、この会社をバシッと変えてみませんか?」
 「ん?有川課長も一緒ってことは・・・ひょっとして今噂のプロジェクトっ
 てやつか?」
 「お、さすが前村さん。勘がいいですね。
 有川課長とも話したんですけど、前村さんのこのパワーがプロジェクトの原
 動力になるんですよ。この前村パワーで会社をドドドォ〜っと前向きに進め
 てみましょうよ。
 とても楽しみなんですよ、あの前村パワーを見るのが。」
 「う〜ん、そうだな。そこまで言われて断っちゃ、男が廃るってもんだ。
 よっしゃ、まかせとけ。」
 「それでこそ前村さん、さすがだなぁ。
 じゃ、詳しいことはまた後で連絡しますから。
 よろしく頼みますよ!」
 
  なんだか狐につままれたような感触だ。
  星田くんの勢いなのか、それとも前村くんの勢いなのか?あれよあれよと
 いう間に、前村くんをその気にさせてしまったのはマジックを見ているよう
 な感覚だった。

 「有川課長、次行きましょうか?
 えっと・・・製造一係の古畑さんにしましょう。この人の場合は・・・」
 なにやら手帳を取り出し、確認している星田くん。
 「お、なんだいそれは?」
 「ひ・み・つ!
 さて、電話借りますね。営業のミーティングコーナー、使ってもいいですよ
 ね?」
 「あぁ、それはかまわないが。古畑さんをここに呼ぶのか?」
 「そのとおり、えっと製造一係の番号は・・・」
 
 先ほどの前村くんはこちらから出向いたのに、今度は呼び出すのか。
 何か理由があるのか?
 星田くんのメモも気になるが・・・
 
 「ええ、そういうことでちょっと話しをしたいんですよ。古畑さんの力を是
 非借りたいと思いまして。
 で、営業フロアまでご足路願えますか?
 そう、今すぐにです。お願いします。」
 
  程なくして、工場からわざわざ営業フロアまで出向いてきた古畑さんを目
 の前にすることができた。
  星田くんは一体どうやって古畑さんをおとすんだろうか?
  
 「古畑さん、どうぞどうぞ、お待ちしていましたよ。
 工場からわざわざ営業フロアまで来ていただき、ありがとうございます。」
 星田くんは油のしみこんだ作業着の古畑さんを前に、こう切り出した。
 
 「で、何の話しだ。ま、うすうすはわかっているけどな。」
  古畑さん、腕組みをしてどっしりとイスに座って私と星田くんをにらみつ
 ける。
  年は40代半ばで、役職は係長。だがその風貌と威厳は部長クラス級。噂
 でしか聞いたことはないが、その昔上司に反抗して出世街道から落っこちた
 らしい。しかし、古畑さんの製品知識と熱意は誰もが一目置くものがある。

 「古畑さんだから率直に言いましょう。もうご存じだとは思いますが、ここ
 にいる有川課長をリーダーとした『売り上げ倍増プロジェクト』のチームを
 集めています。その一員として、古畑さんの豊富な知識と経験が是非とも必
 要なんです!」
 星田くんはまじめな顔をして、古畑さんの目をしっかりと見て、熱くこう語っ
 た。
  その熱意は、私でさえ圧倒されるものがあった。
  
  しばらくの沈黙。
  そしてその沈黙を破ったのは、古畑さんの方であった。
 「星田、おまえの言いたいことはなんとなくわかった。
 だが、オレも今の仕事をかかえながらこの仕事ができるかどうか、ちょっと
 不安がある。やるからには責任を持ってやらせてもらいたいからな。」
  うわ、だめなのか・・・その不安が私の頭をよぎろうとしたとき、
 「古畑さん、その一言を待っていましたよ。
 『やるからには責任を持ってやらせてもらうからな』。
 その言葉が出ない人に、この仕事は任せられませんよ。
 ね、そうでしょ。有川課長。」
 「あ、ああ。その通りです。今回の仕事は少数精鋭。それだけに責任をもっ
 てもらいたいんです。」
  不意に私に振られて一瞬びっくりしたが、なんとかそれなりの答えはでき
 た。まったく、星田くんにはびっくりさせられるな・・・

 「そうか、そうまで言われちゃ男がすたるってもんだ。
 よし、快く引き受けよう。
 でも条件がある。オレはオレのペースでやらせてもらうからな。
 これだけは心してもらうぞ。」
 
  これで三人目決定。
  
  前畑さんが帰った後、星田くんは休む間もなく次の行動に移った。
 「有川課長、次は購買の山元さんです。まずは今回のプロジェクトに関する
 資料のようなものはお持ちでないですか?」
 「ああ、今まで定例会議で使った山のような資料はそこのファイルにあるが
 ・・・でも中身はたいしたこと書いていないぞ。」
 「それで十分。じゃあ、山元さんを呼び出しましょう。」
 
  購買の山元くんが営業フロアに来たのは、それから10分後だった。今か
 かえている書類を処理してからということで連絡を受けていた。
 「やあ、山元さん。新製品の購入品の状況、うまくいっていますか?」
 「ん、まあまあかな。今もその書類をつくっていたところだよ。」
  購買の山元くん、年は30代前半で確か去年係長に昇進したばかり。なか
 なか的確な仕事をするのが評判なのだが、めがねの奥に光る目は、かなり
 クールなイメージを与える。
 「で、星田くん、電話でも言っていたが、あのプロジェクトの件かい。
 私的にはリスクが多すぎて乗り気じゃないんだけどな・・・」
 「山元さん、まずは今我が社がおかれている現状を見てもらえますか?」
  星田くんはそういって、先ほど私が出した資料の一ページを山元くんに見
 せていた。
 「山元さん、これが今我が社が置かれている状況です。確かに売り上げだけ
 見ると右肩上がりです。が、実のところ薄利多売。おまけに人件費などの固
 定費も徐々にアップしているため、なにかしらの対策を打たないと、私たち
 の将来も危ないんです。わかりますか?」
 「ああ、たしかにこの資料の数字を見ると、そう読みとれるな。
 だからといって、今回のプロジェクトでそれが挽回できるか、とてもリスク
 が大きいんじゃないのか?」
 「何も冒険しようってわけじゃないんです。むしろ冒険を避けるために、山
 元さん、あなたの力を借りたいんです。」
 「私の力・・・、どういう事だい。」
 「現状をしっかりと把握し、分析して作戦を立てる。このプロジェクトには
 欠かせない要素なんです。我が社を見渡してそれができるのは、山元さん、
 あなた以外に思いつかないんですよ。」
 「そんなに買いかぶらないでくれよ。でもこの資料の数字を見る限りでは、
 なんらかの手を打たないと我が社の将来も危ないのは確かだな。
 そうだな・・・一つ手を貸してみるか。」
 「ありがとうございます!」
 
  この間、私は事の成り行きを見ているしかなかった。というよりも、ヘタ
 に横から口を出すと、星田くんのシナリオを壊しそうな雰囲気だった。

  これで四人目決定。
 
  残るは製造管理の本多くんだけである。
  また営業フロアに呼び出すのかと思い内線番号を調べている私に、星田く
 んはこう切り出した。
 「最後は本多くんですね。じゃあ、製造管理まで生きましょうか。」
  星田くんの行動の理由の訳がわからず、ただ立ちすくむ私がそこにいた。
  
 「さて、最後は本多くんですね。有川課長、ちょっとお願いがあるんですけ
 ど。ここはわたしじゃなくて有川課長に口説いて欲しいんですよ。」
 「え、わたしが・・・うまくいくかなぁ・・・」
 「大丈夫ですよ。有川課長から本多くんに言って欲しいのはこのセリフだけ
 ですから。後はわたしがフォローしますよ。」
 「どんなセリフなんだい?」
 「それはですね・・・」
 
  製造技術のフロアに向かう途中、わたしと星田くんの打ち合わせはこんな
 感じで進んだ。
  しかし、星田くんから教えてもらったこのセリフだけで、本多くんを口説
 くことができるのか?
  ま、お調子者の営業・前村くん、頑固そうな製造・古畑さん、計算高い購
 買・山元くんを次々と口説いていった星田くんが言うんだから、間違いない
 んだろうが。

 「本多くん、本多くん、ちょっとちょっと。」
 「あ、星田さん。なんですか、一体?」
 「頼むからさ、同期に『さん』づけはいい加減やめようよ。
 それよりちょっといいかな? 営業の有川課長から話しがあるんだけどさ。
 営業フロアから来てくれているんだ。時間取れる?」
  星田くんはわたしの方をちらっと見て、本多くんにそう伝えていた。
  このときわたしは、製造管理の打ち合わせスペースのイスに座って待って
 いた。これも星田くんの指示だ。

 「え、わざわざ来てくれているんですか。
 わかりました、すぐにいきます。」
  本多くんはあわてたように、わたしのいる打ち合わせスペースまで来てく
 れた。とても恐縮しているような感じを受けた。

 「やあ、本多くん。おそらく直接話しをするのは初めてだよね。
 営業一課の有川だ、よろしくな。」
 「はい、わたしは有川課長のことを良く存じ上げています。矢木沢産業始まっ
 て以来の最年少課長として有名ですから。あこがれなんですよ、わたし。
 なんだか緊張しちゃいます。」
 「おいおい、そんな買いかぶらないでくれよ。わたしはスターでも何でもな
 い、普通の会社員なんだから。
 ところで、今日本多くんのところに来たのは他でもない。
 わたしに協力してくれないか。そして、この矢木沢産業のために力を貸して
 くれないか。
 そのお願いに来たんだよ。」
 「え、わたしみたいな者が・・・」

  実は星田くんから授かったセリフはこの部分だけ。あとは星田くんがフォ
 ローしてくれるということだったが・・・
 
 「わたしみたいな者の力が有川課長のお役に立てるんですか?
 とてもうれしいです。是非協力させて下さい!」
 
  おいおい、いくら何でもうまくいきすぎだろう。それにまだ、何を手伝っ
 て欲しいのか内容も言っていないのに。
  ちょっと不安になって、こちらからこう切り出した。
  
 「何をして欲しいのか、内容も聞かずに決めてしまっていいのかい?」
 「あ、そうですよね。でも有川課長といえば例のプロジェクトでしょ。
 わたしはよく知っていますよ。
 先週の定例会議での役員や社長とのやりとりも。それを聞いてから、わたし
 もなにかお手伝いしたいと思っていたんです。
 是非よろしくお願いします!」

  なんだかわからないウチに五人目決定。
  
  なんだか狐につままれたような2時間だった。あれよあれよという間に、
 一週間あれだけ頭を悩ませていたことがすっきりと決まってしまったのだ。
  その謎を聞きたくて、営業フロアに戻る途中わたしは星田くんに質問をし
 てみた。
 「おい、一体どんな魔法を使ったんだ?特に最後の本多くん。星田くんが出
 る間もなく決まってしまったじゃないか。」
 「魔法でも何でもないですよ。相手のタイプを見極めてちょっとしたツボを
 つつけば、なんてことはないんです。」
 「相手のタイプ・・・? 何だそれは?」
 「これ、実は羽賀コーチから教えてもらったんですけどね。コーチングでは
 タイプ別のアプローチのやり方があるんですよ。
 立ち話も何ですし、ちょっと図を書いた方がわかりやすいので、営業フロア
 の打ち合わせスペースまで行きましょうよ。」

 営業の打ち合わせスペースに戻り、わたしは宮永さんにコーヒーを二つ頼む
 と、早速その『タイプ』とやらを聞き出そうと乗り出した
 「で、早速その手品の種の『タイプ』とやらを教えてくれよ。」
 「じゃあ、リクエストにお応えして。
 コーチングでは人って大きく4つのタイプに分かれるそうなんです。」
 星田くんはそう言って、ホワイトボードに”田”の字を大きく書いた。
 そして、左上のマスに『コントローラー』、右上に『プロモーター』、左下
 に『アナライザー』、右下に『サポーター』と書き出した。
 「今書いた4つが、コーチングで言うところの『4つのタイプ』ってやつな
 んです。」

  星田くんが書いたこの4つのタイプ、文字を読んでなんとなく手品の種が
 見えてきた気がした。
  なるほど、今回アプローチをとった4人は・・・

「コントローラーにプロモーター、アナライザーにサポーターか。星田くん、
 ひょっとして今回の4人って・・・」
 「さすが有川課長、なんとなくわかってくれましたね。
 種明かしをしますと、営業二課のお調子者の前村さん、彼は『プロモーター』
 です。」
  星田くんは『お調子者』のところだけ小声で解説してくれた。なにしろこ
 こは営業フロアだから、さすがに大声では言えないだろう。

 「つづいて製造一係の前畑さん、見たとおり頑固一徹の親分肌。これは『コ
 ントローラー』です。
  計算高い購買の山本さんは『アナライザー』、そして気がつかないうちに
 私達をサポートしてくれる製造管理の本多くんは『サポーター』ってわけで
 す。」
 「なるほど、この4つのタイプって確かにそれぞれの性格をとらえているな。
  ところで、それぞれのタイプについてもう少し詳しく教えてくれないか?」
 「じゃあ『プロモーター』から。とにかく楽しいことが好きで、『もういいっ』
 ってくらいしゃべってくれますね。アイデアマンなんですよ。それに何でも
 柔軟に対応できるってのも特徴かな。それに思いついたらすぐに行動っての
 もありますね。
  反面、細かいところは気にせず、計画性に乏しいってところが弱点かな。」
  営業打ち合わせエリアの仕切りの向こうで、調子よく電話で対応している
 前村くんの声がこちらまで響いてくるのを聞くと、おもわず納得してしまっ
 た。

 「次に『コントローラー』。先ほどもいいましたが親分肌で、自分の思
 ったとおりに物事を進めるタイプです。決断力があり行動的、リーダーとか
 中小企業の社長さんに多いのがこのタイプですね。
  ただし感じているとは思いますが、自分の意思で物事を動かそうというと
 ころがあるので、人の話をあまり聞かなかったり、逆にコントロールされる
 のをすごく嫌うんです。」
  前畑さんの顔と、工場での指導力を思い浮かべると、これも妙に納得して
 しまった。そうか、前畑さんが以前上司に反抗したのも、そういった性格が
 あったからなのかもしれないな。
  プロジェクトチームをまとめる上では重要な人だけど、扱い方には注意し
 ないと。

 「次は『アナライザー』。物事に対しての分析力は抜群ですね。何か行動を
 起こすときも、事前にデータを集めて、計画を建ててから実行するんです。
 ですから一見すると『行動へのとりかかりが遅い』と感じる人もいるようで
 すが、それは準備をしっかりしているだけ。準備OKとなれば、その行動と
 結果へ結びつけるスピードはピカイチですよ。
  でもこのタイプは、失敗をすることが嫌いで、計画外の変化や混乱に弱い
 ところがあります。先ほどの『プロモーター』とは正反対の性格かな。」
  購買・山元くんの『計算高い』という評判はこの性格からきているんだ。
 一見クールに見えるのも、実はいろんなことを分析しているからなんだな。
 しっかりとデータを分析してプロジェクトを進めるには必要な人材だ。

 「最後に『サポーター』。読んで字のごとく、人を支援するのが好きですね。
 それに協調性を重視しています。だからなによりも人間関係を優先しちゃう
 タイプかな。
 人間関係を重視しちゃうので、自分の意見をなかなか言ってくれなかったり、
 決断力が乏しいということもありますね。あと冒険をなかなかしないという
 のもあるかな。あえてリスクのあることを避ける傾向があるようです。」
  そうか、それで製造管理の本多くんが目立たないわけだ。でも彼がいなく
 なると困る人間がたくさんいるというのもわかる気がする。人目に触れない
 ところでこの矢木沢産業を支えてくれているんだろうな。

 「なるほどな。それぞれのタイプががっちりスクラムを組めば、このプロジ
 ェクトもうまくいきそうな気がするよ。
  ところでもう一つ教えてくれないか。それぞれにアプローチするときにい
 ろいろと手を変えていたよね。おかげでみんなすんなりと了解してくれて、
 びっくりしているんだけど。その種明かしもしてくれよ。」
 「ははは・・・手品じゃないけど、種を知ればなんてことはないんですよ。
 最初のプロモーター・前村さん。このタイプはノリでいくといいですね。で
 すから『バシッ』とか『ドドドォ〜っと』なんて言葉を多用すると、すぐに
 乗り気になっちゃいます。」
 「なるほど。じゃあコントローラーの前畑さんは?」
 「このタイプは回りくどい言い方はきらいですから、単刀直入にお願いした
 んですよ。真剣に向き合うと話を聞いてくれる、このタイプの特徴でもあり
 ます。
  そしてもう一つ、上下関係をつけたがるという性格もあります。できれば
 自分が上でいたいんですね。でもプロジェクトを進める上でのリーダーは有
 川課長ですからね。後々のことを考えて、有川課長のエリアで進めたほうが
 いいと思って。」
 「それでわざわざ工場から営業フロアまで呼んだのか。」
 「そうなんです。チームを引っ張ってくれるためにも前畑さんは必要ですけ
 ど、前畑さんのチームではないということを認識してもらわないといけませ
 んからね。」
 「今後の扱い方が難しそうだな・・・。
  ところでアナライザーの山元くん、彼に対してはなんとなくわかったよ。
  私の資料を、特に数値のある部分を彼に見せたのがポイントだろう?」
 「その通り。変化を嫌うこのタイプですが、矢木沢産業が危ないというデー
 タがあれば、今度は自分の生活に変化がくるわけですからね。そこまですぐ
 に考え付くのが計算高いアナライザー・山元さんなんですよ。」
 「じゃあ、サポーターの本多くんは?」
 「こちらからわざわざ出向いたでしょ。この時点ですでに決まったようなも
 のですね。自分より立場が上の人が、自分のところにわざわざ出向いてくれ
 たんです。人間関係を重視するので、恐縮するのは当たり前。それに彼は有
 川課長のファンですからね。当然お役に立ちたいってことですよ。」

  正直言って星田くんの戦略には頭が下がる思いだ。
  この4つのタイプというのは、人間関係を築くのにとても役に立ちそうだ。
 それぞれのタイプにあわせたアプローチを間違えなければ、わりとスムーズ
 にことを運ぶことも可能だろう。
  しかし、今回の出来事はあまりにもうまくいきすぎ。そう思って星田くん
 に質問してみた。

 「星田くん、いくらタイプごとのアプローチがうまくいったからといっても、
 ちょっとうまくいきすぎじゃないのか?もう一つくらい手品の種があるだろ
 う?」
 「ははは・・・ばれちゃいましたか。実はですね、これも羽賀コーチのおか
 げなんです。有川課長がプロジェクトチームの件で悩んでいるって、森田主
 任から聞いていたもので。
 以前コーチングの本で『タイプ分け』によるチーム編成ってのを読んだこと
 があったので、羽賀コーチにいろいろと聞いておいたんですよ。」
 「タイプ分けによるチーム編成か・・・。星田くん、今度その本を読ませて
 くれよ。今後の参考にもなるだろうし。」
 「えぇ、もちろん。実は今日会社に持ってきているんで、後で持っていきま
 すね。さぁて、これからの仕事が楽しみだなぁ〜。
 有川課長、まずはチーム編成をお祝いしてぱぁ〜っといきましょうか!」
  どうやら星田くんは営業の前村くんと同じ、プロモーターらしいな。
 「ま、ぱぁ〜っといくのは明日の役員報告を行ってからにするか。」
   
  プロジェクトチーム結成の簡単な報告書を作成し、部長と役員、それに社
 長への報告も無事終了。報告の際、今後のスケジュールについて役員室から
 こんな注文を受けた。
 「まずは有川くんに6週間をあげよう。その間に君が結成したプロジェクト
 チームで、この矢木沢産業で行う『売り上げ倍増プロジェクト』の詳細を決
 めてくれ。
 6週間後の定例会後に時間を設定しておく。くれぐれも言っておく。君たち
 に与えられた時間は6週間だ。」
 ある意味冷酷な期限を宣告したのは、かつてチームを組んだ大がかりなプロ
 ジェクトをリーダーとして推進し、詰めの甘さで大きな損害を出してしまっ
 た竹下常務であった。
  かつては熱血竹下と言わしめた人だったと聞いているが、今は何において
 も冷静沈着、そして『冷酷』とも言われている。
  この人の氷を溶かすのは、並大抵な事じゃないだろうな。
 
 「わかりました。6週間後ですね。それでこの間の業務と予算についてです
 が・・・」
 「業務はこのために専任してもらうことはできない。申し訳ないが各自のス
 ケジュールを調整し、適宜会合を開いてくれ。
 まあ、おそらくは定時後しか時間は空いていないだろうがね。
 予算はとりあえずこれだけ承認しておく。」
 そう言ったのは谷口総務部長であった。彼も以前は竹下常務の下についてプ
 ロジェクトチームを組んだ一人だと聞いている。
  竹下常務同様、ドライなイメージを与える人だな。
  提示された予算は、決して十分とは思えない。が、6週間の活動費、調査
 費としてはなんとかなるか。
  火の車だけどな。

  窮屈な役員室をやっとのことで抜け出せた。ふぅ、息が詰まるな、あそこ
 は。しかし社長が何も言わなかったのが気になるな。一体何を考えているの
 だろうか・・・。
  ま、考えても仕方ない。営業フロアに戻り、ダイヤルをプッシュ。番号は
 技術フロア。お目当ては星田くんだ。
 「星田くんか。おかげさまで報告は終わったよ。ところでチームのみんなに
 連絡をしてくれるかな。そう、まずは会合を開こうかと。
 え、時間と場所? そうだなぁ・・・今日はさすがにバタバタしすぎだな。
 明日は私が無理だし・・・木曜は?星田くんが時間が取れないのか。そうす
 るとやっぱり金曜の定時後か。場所?そうだなぁ・・・あ、あそこはどうだ。
 今日の昼間に言った飲茶の店。夜も当然やっているんだろ?よし、決まりだ
 な。
 そういうことで、星田くんからみんなへの連絡を頼むよ。あ、営業の前村く
 んだけは私がやっておくから。」
  電話を置くと、となりの課に目をやる。あいかわらず前村くんはテンショ
 ンの高い電話をかけているようだ。声だけは目立つヤツだな。
  このとき、後からある視線が私に向けられていることに、私はまだ気付い
 ていなかった。この視線がこのあと営業一課に問題を引き起こすことも。
 
  迎えた金曜の夜、あの飲茶店に6人の精鋭が集まった。営業二課の前村く
 ん、製造一係の古畑さん、購買課の山元くん、製造管理課の本多くん、今回
 の立役者である技術部の星田くん、そしてリーダーとなる私、営業一課の有
 川だ。
 
 「へぇ〜、会社のすぐ近くにこんな店があったのか。知らなかったなぁ〜。
 古畑さんは知ってました?」
 とのっけからテンションの高いプロモーターの前村くん。

 「聞いたことはあったが、来たことはない。でも雰囲気はいいな。山元くん
 は来たことはあるのかい?」
 しぶい口調のコントローラー古畑さん。

 「私も初めてですよ。ガイドブックや味本にも載っていなかったと思うな。
 本多くんは知っていたかい?」
 クールな口ぶりで語るアナライザー山元くん。

 「私は何回か来たことがありますよ。いつか友だちを連れて行こうと思って
 いたんです。でも星田さんが知っているとはね」
 ぼそぼそっと語るサポーター本多くん。

 「だから同期に『さん』づけはやめろって。ま、盛り上がるって店でもない
 けれど、料理は間違いナシですよ。ゆっくり語るのにはもってこいの場所で
 すよね、有川課長。」
 こういうのに慣れているのかな、星田くんは。

  4つのタイプか。確かにそれぞれの特徴があるな。
  私は相変わらず禁酒を続けているが、お酒抜きでもこれだけ楽しい語らい
 ができるなんて、思いもしなかったな。

  あの後星田くんから借りた本で学んだ技術と、と羽賀コーチからメールで
 教えてもらったこのタイプ別のコミュニケーション術。
  これからの活動が楽しみになってきたよ。

  ここから始まる「チーム」。一体どんなことが起こるのだろうか。
  まあいい、今はこの時を楽しむことにするか。






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